廃墟にある本の話


この世界の果てには誰もいない廃墟があって、
その中心部に位置する祭壇の跡には一冊の本が置いてあります。
その本は不思議なことに、一日に一度、誰も何もしていないのに自然にめくれて、
世界にはそのページに書いてある通りのことが起きます。

かつて、ここまで来ることのできた人間は三人いました。
最初の女性は、この場所が自分にはどうにもならない場所であることを悟り、
何もせずに自分の家に帰ってゆきました。
二人目の青年は、どうにかこの本を自分の国の王様のもとへ持ち帰ろうとして、
そのまま何もできずに死んでしまいました。
三人目の初老の男は、ここまで来るために犠牲になったすべての者を想いながら、
その日のページに世界の祈りをそっと書き込みました。

この世の果てにある誰もいない廃墟の中心部の祭壇の跡で、
今日も一枚ずつ、ゆっくりとページがめくれていきます。
地球と同じ重さのこの巨大な本は、しばらく誰の目にも触れることはないでしょう。


(012 [本] 廃墟にある本の話/終)


小物小説一覧に戻る