通天閣へ行こう


突然、通天閣に行きたくなった。
一人で行くのも淋しいと思ったので、彼女に電話をかけた。

「もしもし」
「マブチさん? なんですか、こんな夜更けに」
「通天閣行かないか」
「は?」
「通天閣だよ、通天閣。大阪のアレさ」
「えっ……大阪って、え、ここ、札幌」
「うん。でも札幌に通天閣はないでしょ」
「そういう問題じゃなくてですね。通天閣ですか? いきなりなんでです?」
「いや理由はさておきとにかく行きたいんだ。一緒に来ないか?」
「……マブチさんらしいというかなんというか……
 ところでマブチさん、それ、私の仕事知ってて言ってるんですよね」
「一日くらい休めるだろ」
「休めません! マブチさんが思ってるのの数百倍は忙しいんです!」
「うーん、それは悪かった。で通天閣だが」
「行けません」
「そんなこと言わずに」
「ひとりで行ったらいかがです? その方が安く済みますし」
「そんなに行きたくないの?」
「だっていきなり大阪って悪ふざけにもほどがありますよ!」
「別にふざけているわけじゃないんだが……そんなに嫌なら仕方ない。ひとりで行くよ」
「はい。賢明だと思います」
「ホントにひとりで行くよ」
「頑張ってください」
「たったひとりで登る通天閣」
「さっきから何が言いたいんですか! わけわかんないのもいい加減にしてください!」
「いや、なんでもないよ。ひとりで行くって」
「あーもー! 大阪は無理ですけど札幌テレビ塔ならどうにかなりますから!
 今度の日曜日の朝十時! 部屋まで迎えに来てください! いいですね!」
「いやテレビ塔登ったってしょうがないんだよ。つうて……」
「つーつーつー」
「………………」

やれやれ。通天閣が札幌テレビ塔になってしまった。
ま、頼み込んだ手前仕方がないか。日曜日はせいぜい彼女のご機嫌を取ってあげよう。

でも、通天閣は諦めないぞ。いつか必ず彼女と一緒に登ってやる。絶対。


(017 [通天閣] 通天閣へ行こう/終)


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