ちいさなとげ


美人揃いのうちの会社で、数少ないぶさいくである私と田辺さん。
お昼はいつも一緒にお弁当を食べる私と田辺さん。
昔の女学生みたいな髪型に、四角いメガネが光っている私と田辺さん。

「田辺さん、メガネ取ると美人らしいよ」
社内でいつしか広まりだした馬鹿な噂。
私はその噂を鼻で笑った。そんな馬鹿なことがあるわけがない。
昼休み、チャーハンを口から飛ばしながら田辺さんにその噂を話す。
「そんな、漫画じゃあるまいしねえ。ねえ田辺さん」
曖昧に笑う田辺さん。
瞬間、私は何かに追われるような恐怖感に駆られ、田辺さんのメガネを奪った。
メガネのない田辺さんはやっぱりぶさいくだった。
「返してよう」
田辺さんにメガネを返し、ごめんごめんと笑った。

田辺さんと別れ、私はひとりでトイレに行く。
用を足すふりをしたあと、鏡の前で自分のメガネを外してみた。
やっぱりぶさいくだった。

何やってるんだろ、あたし。
ぎこちない表情のまま課に戻った。


(028 [悪意] ちいさなとげ/終)


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