微妙


パン、パン、ドドドド。ドゴーン。
キュラキュラキュラキュラ、ゴゴゴゴゴ、ターン、ズゴゴゴゴ。

「なあ」
「あ? なんだよ」
「お互い今日も生き残ったな」
「……ああ、生き残ったな」
「この戦争、いつ終わるんだろうな」
「さあな」
「早く終わってくれるといいな」
「そうだな」
「できれば今年中に終わってくれれば……」
「おい。何なんだよ。疲れてんだから早く寝かせろよ。明日早いんだぞ」
「おっと、悪い。なあ、ちょっといいか」
「改まって、わざわざなんだよ」
「この写真見てくれよ」
「あん? 誰だよこりゃ」
「オレ、この戦いが終わったら彼女と結婚するんだ」
「……!」
「だからさ、オレ、一生懸命頑張って早く戦いを終わらせようと思ってんだよ。
 そしたらそれだけ彼女と早く結婚できるだろ?」
「あ、ああ、そうだな」
「だからさ、この分じゃいつ離れ離れになるかわからんから、今のうちに言っとこうと思って。
 オレたちの結婚式にはお前、絶対来てくれよな」
「…………わかった」
「ほら。美人だろ? 幼馴染なんだよ。スーってんだ。
 今もずっと故郷でオレの帰りを待ってる。ずっと待たせちゃって申し訳ないけどな」
「……お前さ、このタイミングでその話題ってのは……」
「何だ?」
「いや、なんでもない」
「そうか。実はもう子供の名前まで決めちゃってるんだよ。男だったらサバルってつけようと思ってる。
 うちの故郷の言葉で「勇敢」って意味なんだ。もし女の子だったら」
「なあ」
「ん?」
「その話題、やめないか」
「なんでだよ」
「だってお前……いや、いい。とにかくやめとけ」
「……? わ、わかったよ」
「もう手遅れかもしれんがな……」
「さっきから何の話をしてるんだ?」
「気にすんな。ほら、寝るぞ」

ズズン、カッ、パラパラパラパラ、トタタタタタ。
ガガガガ、ピーピーピー、キュララララ。ドーン!

「……終わった。戦いが……終わった。
 これで帰れる……生きて帰れる……は、ははは……。
 またスーに会える……ずっと一緒に暮らせる……やった、やった。は、はは。
 イヤッハーーー! うわああああ! 生き残ったぞォォ! スゥゥゥ、オレは生き延びたぞォォォ!
 ははは、おい、やったな! お互い生き残った! お前絶対オレの結婚式来いよ! 約束だぞ!
 ……ってお前、なんだよその微妙な視線は。オレ何かしたか?」
「いや、だってなあ」


(030 [死亡フラグ] 微妙/終)


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