アイアンクロー症候群


 手ごろな大きさの丸いものを見るとアイアンクローをかけたくなる病気というものがあって、うちの姉貴がまさにその病気にかかっている。卵くらいの大きさなら全然平気なのだが、片手でぎりぎり持てるくらいの大きさになるとやばい。道行く子供からどっかの店の開店記念プレゼントの風船を奪い取ってアイアンクローをかけたり、通りかかった果物屋に突撃して店中のメロンを握り潰したり、もう散々だ。まぁ、いい年こいてまだ独身なのは、その病気のせいばかりではないと思うが。

 かく言う俺は今、全日本代表サッカーチームのゴールキーパーとして活躍している。巷ではどんなシュートでも掴んでしまう魔法のキャッチャーとか言われているらしい。たぶん姉貴と同じ病気にはかかっていないはずだ。来週生まれる自分の息子のために、俺はそう願わずにはいられない。


(035 [アイアンクロー] アイアンクロー症候群/終)


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