再葬


 見事な枝振りの墨染桜の下の地面から、女の子の上半身が生えているのが遠目に見えた。慌てて近寄って確かめてみると、女の子はとっくの昔に死んでいた。これが噂に聞く、桜の下に埋まっているという死体なのだろう。初めて見た。
「しかし……」
 誰だ、こんな中途半端な埋め方をしたやつは。半身浴じゃあるまいし、下半身だけ土の中に埋めてどうするんだ。これじゃまるで落とし穴にひっかかってもがいてるみたいで間抜けじゃないか。
 そう思ったので、近くの民家からスコップを借りてきて女の子を埋め直すことにした。幸いにも柔らかい土だったので、女の子の体がすっぽり入るくらいの穴を掘りきるまでそう時間はかからなかった。桜の幹に寄せておいた女の子の体を穴の中に寝かせ、上から土をかぶせる。たちまち何も見えなくなった。はい、終わり。女の子の死体はちゃんとした形で桜の下に埋まった。これで良いのだ。
 しかしスコップをかかえて戻ろうとした瞬間、すっかり何の痕跡もなくなってしまった地面を見て違和感を覚えた。これでは、ここに女の子の死体が埋まっていることに誰も気づかないだろう。誰も知らない桜の木の下の死体。それは本当に、桜の木の下に死体があるということになるのだろうか?
 少し考えたあと、結局また穴を掘り返し、女の子の首だけ地面の上に出しておくことにした。こうしておけば、ここに女の子の死体があることが誰の目にもはっきりとわかる。前より不気味になった気もするけど、それでこそ死体というものだろう。


(036 [桜の木の下の死体] 再葬/終)


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