足跡探検


 喫茶店で昼食をとってのんびり街中を歩いていると、地面に足跡が続いていた。ペンキで直接アスファルトに描かれているような白い足跡だ。どこに続いているのか気になったので先を目で追う。足跡は歩道の上をまっすぐ伸び、車道を越え、縁石も越えて、突き当たったビルの壁にも垂直に続いていた。足跡はそのまま壁をまっすぐ登って、一番上まで行ったところで見えなくなっていた。おそらく屋上にも続いているのだろう。ビルの裏側に回ってみると、予想通り、足跡は屋上から再び現れて、壁を垂直に下り、またアスファルトに戻って、俺の足元を通ってまだまだ先まで続いていた。どこまで続くんだ? どうせヒマだったので、しばらく追いかけてみることにした。
 しばらく足跡について歩いていると、少し先に、同じように足跡を辿っているおっさんがいることに気がついた。走り寄って声をかけると、やはり自分と同じように、この足跡の続く先が気になって仕方がないのだという。
「気になりますよね」
「こんなの続いていたらねえ」
 そのまま二人で延々と足跡を辿り、一時間もした頃だろうか。足跡の終着点がついに見えてきた。足跡はひとつの古いビルに向かってまっすぐ伸びていて、その入り口のところで途切れていた。足跡は最後に立ち止まるようにぴったり両足を揃えていて、その先には同じペンキで「Welcome」と書かれてあった。地面から目を離し、入り口の看板を見上げる。そこはパチンコ屋だった。おっさんが呟く。
「パチンコ屋の宣伝だったみたいですねえ」
「なんか……裏切られたような気分です」
 よりにもよってパチンコ屋とは。おっさんと顔を見合わせ、はははと力なく笑った。ほんと、よりにもよってパチンコ屋とは。正直がっかりしたので、おっさんと二人で戻ることにする。
「じゃあ、帰りますか」
 するとおっさんは言い訳をする時のような笑みを浮かべ、パチンコ屋を指差した。
「いや、私はちょっとここで遊んでいくことにしますよ。お別れですねえ」
「あ、そうですか」
「だってせっかくここまで歩いてきたんですからねえ」
 そう言われればそうだが、負けたような気分がしてどうも釈然としない。
「じゃあ」
「それじゃ」
 店の中に消えていくおっさんを見送ったあと、足跡を逆に辿り始める。あのおっさんはこんな平日の真っ昼間からパチンコ屋なんかで遊んでいて大丈夫なのだろうか。仕事はいいのか?
 と、そこまで考えたところで無性におかしくなった。そういえば俺も無職なんだった。いくらヒマだからって、平日の真っ昼間からこんな足跡なんか辿ってる場合じゃなかったな。あはははは。


(037 [足跡] 足跡探検/終)


小物小説一覧に戻る