広場のこと


 ぼくらの住む街の駅前には全国的に有名な時計塔広場があるのですが、その広場に行くのは決まってよそから来た観光客だけで、地元の人間はわずかな職員以外ほとんど誰もそこには行かないのでした。広場にはとても美しい庭園と時計塔があるそうで、観光客には大変に好評らしいのですが、十数年前に広場で大火事が起きて大惨事になったことがあるので、その時の嫌な思い出が蘇ってしまうと言い、大人はみんな足を向けたがらないのです。だから僕たち子供もそこには滅多に行きません。

 しかし先日また広場で大火事があって、今度は広場そのものがなくなってしまうことになりました。大人たちが恐れていた通り、やはり何かに呪われていたのかもしれません。そのことについてテレビで街頭インタビューをやっていたのですが、街の人々は揃って口を濁しています。誰も広場のことを知らないのですから、何も答えようがないのです。逆にこの街以外の出身の人間がみんな饒舌にこの街の広場のことを絶賛している姿を見ると、なんとも言えない妙な気分になります。


(042 [時計塔広場] 広場のこと/終)


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