切れてなーい


「それではこれより第三十六回切れてない道初段認定試験を始めます。受験番号1番の方、髭を剃りながら、これから私が話す内容をよく聞いてイメージしてください。
 あなたは高校生です。今日も親友とどうでもいいことをだべりながら、学食で昼食を食べています。すると、ふと誰かの視線を感じました。気になって周囲を見回すと、自分の席から少し離れたところにクラスで一番可愛い女の子が座っていて、こちらをちらちら眺めていることに気付きました。あなたと目が合ったことに気付くと、彼女は愛想笑いを浮かべて目を逸らしてしまいました。しかし、心なしか頬がほんのり赤くなっています。
 次の日も彼女はこちらを見ていました。すっかり忘れていたのですが、そういえばあなたは彼女に、同じクラスになったばかりの頃、いろいろ親切にしてあげたのでした。ありがとう、とあなたにお礼を言った時の彼女は、とても可愛らしい様子でした。なんだか、少し胸がどきどきしてきました。と、突然彼女は覚悟を決めた様子で立ち上がり、あなたの座っている席に向かってつかつかと歩いてきます。彼女は真っ赤になりながら、今日の放課後、校舎裏に来てくれませんかと言いました! ……あなたの隣にいる親友に向かって!
 そこまで! 動かないでください、判定!」
「切れてなーい」
「よろしい、合格!」


(050 [髭剃り] 切れてなーい/終)


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