弟子になりたい
「先生! お願いです、僕を弟子にしてください!
弟子にしてくれるまでここを動きません!」
「あら、またあそこの先生に新しいお弟子さん候補が来てるわね……」
「最近多いなあ。前は二週間前だっけ?」
「十日くらい前かな。ゆうちゃんの誕生日の日だったから」
「しっかし、よく雪の中にあんなにずかっと座れるよな。冷たくないのか?」
「それをアピールするのが目的なんじゃないの」
「みんなやってることなのにな。目新しさがない」
「もうこのあたりの名物になっちゃってるもんね」
「お、先生が出てきたぞ。何か言ってる」
「やっぱ今回も駄目だって感じねえ。あらあら、あんなに頭下げても無駄なのに」
「おお叫んでる叫んでる。若いって奴は羨ましいもんだ」
「あ、家の中に戻った」
「てことは、いつものパターンだな」
「うん、そうみたい。あはは、今日もやっぱりまた持ってきたわよ」
「あれ?」
「あれあれ。いつもの石油式ストーブ」
「うはは、面食らってる面食らってる」
「続々と来たわよ。娘さんは毛布ね」
「息子さんはテントとポータブルテレビか」
「こう毎回毎回繰り返してると手際もすごいことになってるわね。あ、もうテントが建った」
「二十秒かかってないんじゃないのか?」
「テレビに出れるんじゃないの? 特技を披露する番組あるじゃない」
「地味な特技だなー。それより彼を見ろよ彼を。鳩が豆鉄砲食らったような顔してるぜ」
「ああ、毎度のことだけどほんと笑える」
「で、いつもの作戦通り、みんな家に戻っていったな」
「ひっひっひっ、ちょっと、あの光景シュールすぎるわよ……」
「テントで雪をしのいで、毛布で寒さをしのいで、ストーブで暖取って、テレビ見ながら座り込み。
お前何しに来てんだよ(笑)」
「ほら見て、見て。めちゃくちゃ困ってる。困ったらまゆげがピクピクするのね。ひっひっ、最高」
「ここで間を置くのがポイントなんだよな」
「この間で相手に考えさせるのがミソなのよね」
「そしてトドメに奥さんが……お、来た来た。スープ持って。いっぺん飲んでみたいな、アレ」
「いつ見ても美味しそうよねえ。今度材料聞いてみようかしら」
「お、彼、諦めたみたいだぞ」
「今回は早かったわね」
「それが賢明だと思うがな。ああ、頭下げて帰っていった」
「結局あの人、何しに来たのかしら?」
「それは聞いてやるな(笑)」
「にしても、あの先生って、本当は優しい人なのかそうでないのか、どっちなんだろうね」
(048 [座り込み] 弟子になりたい/終)
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