『呪怨』観ました(その1)


もう随分前の話になるんですけどね。

僕、まだ当時は大学生やってて、ある運動系のサークルに入ってたんですが。
夏休み、ありますよね、それで海沿いのキャンプ地に合宿に行ったんです。
人の少ない土地で、海もとっても綺麗で、
心地よい潮風がいつも、さぁーっ、さぁーって吹いてる田舎町でした。
その前の年にサークルの先輩が来てすごく気に入って、それで合宿場所になったんですけど、
そこの合宿所っていいますか、大きめのロッジ借りて三日ほど滞在してたんですよ。
合宿自体はとても楽しくて、まぁ夜は酒盛りなんかもしちゃいまして、
馬鹿騒ぎしながらあっという間に時間も過ぎていったんです。
それで二日目の夜でしたか、残っていたのは僕と同年代の友人と後輩がひとりだったんですが、
どういう流れか忘れましたけど、肝試しに行こうって話になりまして。
話を聞くと、近くに無人の廃屋がありまして、
そこに幽霊が出るって言うんですよ。
それに、肝試しに出かけた連中は、みんなひと月以内に行方不明になるらしい。
ほら、なんかいかにも眉唾臭いでしょ。
だから僕とか後輩とかは笑っちゃったんですけど、友人はいかにも真剣そのもので。
じゃあ確かめてやろうじゃないかってね。行くことになっちゃったんですよ。
みんな寝てるのを起こさないように、こっそりロッジ出て。近くの廃屋に歩いていきました。

ほんと、行かなきゃ良かったって今は思ってます。
あとから確かめたところによると、本当に行方不明者、沢山いたらしいんですよ。

で、五分ちょっと歩いた場所に問題の廃屋があったんですが。
見た感じではですね、ちょっと古臭い普通の家そのものでした。
もっと僕はこう、いかにもツルが巻きついてて、ところどころひび割れているような、
わかりやすく怖い家を想像していたんですが。外見は実に普通の家でしたね。
でもね。
なーんか、嫌な予感したんですよ。
生気が感じられないっていうか、妙にうすら寒いっていうか。
あっ、やばい、ここはやばいって思ったんです。
なんとも言えず、気持ち悪い。なんかわからないけどやばいんです。
でもですね、今更そんなこと言えないじゃないですか。
友人はともかく後輩がいるんですよ、虚勢張って、なんでもないふりしてました。
それで、人目がないことを確認して、その家の敷地内に入ったんです。
その家、廃屋だってのは本当みたいで、表札も何もありませんでした。
ドアに鍵もかかってませんでしたし、窓という窓が割れていましたから。
先頭に友人、そして僕、後ろに後輩の一列になって、こっそり玄関から中に入りました。
そしたらもう、埃がすごくて。
懐中電灯の光が照らす床という床に、軽く雪でも降ったんじゃないかってくらい埃が積もってました。
おまけにあちこちに物が散らばってまして。
古い変色した雑誌に、コップとか、得体の知れないおもちゃのようなものとか、ごろごろ転がってました。
しかし、そんなものより何より僕が気になっていたのは、空気なんですね。
ものすごく寒い。
いくら夜といっても夏場でしょ、外は20度くらいあったんです。
でもね、ここだけ寒いの。
冷蔵庫の中にいるんじゃないかってくらい寒くて。なんなんだろうって。
それがもうとにかく気持ち悪くて気持ち悪くて。
さすがにほかのふたりも変だって思ったんでしょうね。みんなで目を見合わせました。
それでも今更やめるなんて誰も言えないでしょう。
じわじわと三人で固まって進んで行きましてね。玄関から廊下を抜けて、奥にある居間へ。
居間はさらにひどかったです。
ゴミだかなんだかわからないものが一面に散乱してて。
懐中電灯の光だから一度にすべては照らせないでしょう、だからこう、
なめ回すようにさーって照らしていったんですが、とにかくゴミ、ゴミ、ゴミ。それと埃。
すげえなって、僕たちは口々に呟いたんですが。
その瞬間でした。懐中電灯の光に、きらって何かが光ったんです。

つづく


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